港町や都会……のイメージが強い横浜市ですが、実は農業がさかんな場所でもあることはご存知でしょうか? 市内に住む3,000世帯以上が農業に携わり、野菜や果実、花卉(花が咲く草)などの生産を行っています。
今回訪れたのは「永島農園」。農作物の中でも、“キノコ”の栽培を専門に行っているユニークな農園です。さっそくシイタケの栽培舎を見学させてもらうと、少しひんやりした建物の中に、背の高い棚が整然と並んでいます。棚には白いブロックのようなものが……。
「これはシイタケの栽培用ブロックです。菌床栽培は大鋸屑(おがくず)などからできた培地でシイタケの菌を約3か月かけて培養し、その後で栽培棚に移し、収穫します。栽培棚に入ってから収穫までの期間は一週間程度です」
そう説明してくれたのは、永島農園を経営する永島太一郎さん。永島さんはもともと金融関係の仕事に就いていました。永島農園は奥様のご実家で、現在はその事業をご夫妻で引き継いでいます。
先代は花卉の生産を行っていましたが、8年前、太一郎さんが農業を始めるにあたり、「食べて美味しい、と言って喜んでもらえるものを作りたい!」との思いから、生産物をキノコ類にチェンジ。現在はシイタケやキクラゲを栽培しています。キノコ類に興味をもったきっかけは……
「この仕事を始めるにあたり、千葉県にある農園に農業の研修を受けに行ったのですが、そのときに食べたシイタケの味に感動したのです。それまで正直、キノコなんてどう育てても味は変わらないだろう、と思っていたのですが、既成概念を覆されました」とのこと。
それからシイタケ栽培の研究に没頭し、もともと花卉を育てるために使っていたハウスをシイタケ栽培に適した仕様へと変更。先駆者の元で学び、試行錯誤を繰り返しました。
「農業を長く専業でやってきた人には、経験値では到底かないません。そのため、管理の電子化など先進的な手法を積極的に導入しました。最初の頃はなかなか上手くいきませんでしたが、今では味が良く、収穫量の多い菌床栽培を実現できるようになりました」と、現在までの苦労を語ります。
栽培したキノコはレストランなどに出荷しているほか、農園前の直売所でも販売。さらに、オンラインで予約できるシイタケ狩り体験も行っています。昨今の外出自粛などでレストランへの出荷量が減ったときには、家庭でシイタケを育て、収穫できる栽培キットを販売。メディアに採り上げられて大きな反響を呼びました。そうしたフレキシブルな経営手法は、チャレンジャーだったからこそ、でしょう。
一見、何もない(ように見える)ところからニョキニョキ生えてくる可愛らしさ、温度や湿度などの条件で生育状況が大きく変わるミステリアスなところに、キノコ類を育てる魅力を感じているという太一郎さん。
「キノコ類は食べて美味しいだけでなく、ビタミン、食物繊維が豊富で、美容や健康の観点からも注目されています。ぜひたくさんの人に魅力を知って欲しいですね」と熱く語ってくれました。