「Salmiというのは、日本語で言うと“瀬戸”、陸地の狭間にある海峡、という意味なんですよ。フィンランドでは珍しい名字ではありません」と自己紹介してくれたのは、遠くフィンランドから日本へとやって来たTuomas Salmiさん。大学卒業後、自身の映像制作会社「KAMOSHIKA合同会社」を日本で起業しました。企業や博物館のPR動画を制作するほか、自身のYouTubeチャンネル「Economics in Japan」でオリジナル動画を配信しています。日本に興味をもった最初の機会はアニメーションだったそうです。
「日本製アニメの主人公が旅先でおにぎりを食べるシーンなどを見て、日本に興味を持ちました。キャラクターものアニメなどの中にも、さり気なく日本独自の文化が垣間見えて、それがとても面白かったのです」
最初の来日は高校生のとき。一年間の交換留学生として日本にやって来ました。しかし、そのときの滞在は、文化の違いなどもあり、あまり満足できる内容ではなかったようです。また日本語について、日本文化についても全く学び足りない! と感じたSalmiさんは高校卒業後、改めて日本の大学である横浜市立大学経営学部に入学。起業家人材をテーマにしたゼミに入り、地域社会との交流も数多く経験しました。動画制作を本格的に始めたのも、ゼミがきっかけです。
「ゼミの活動に自分はどういう形で貢献できるのか? を考えたときに、動画しかない! と思いました。中学生のときから、趣味で動画づくりを行っていたのです。ゼミのフィールドワークとして参加したイベントを動画にまとめ、皆がそれを観て喜んでくれたときはとても嬉しく感じました」
それ以来、動画制作にのめり込み、撮影機材や編集機材を揃えていったそう。大学卒業後、一時期は金融系企業への就職も考えましたが、日本の企業文化が自分の性格に合わない、と感じたため、自分で会社を設立した……という経緯です。自身のYouTubeチャンネル「Economics in Japan」では日本の大学事情、経済情勢といった役立つ知識や、なぜ自分が日本の大学に入ったのか? 日本の大学の良いところベスト10といったプライベートな逸話などが分かりやすく動画にまとめられています。企画も、撮影も、編集作業も自分自身。将来的にはドキュメンタリーを中心に仕事を増やしていきたい、と意欲を燃やしています。
現在、日本に来てから6年目。日本語もすっかり上達し、ネイティブの若者とほとんど変わりません。「たくさん喋ると、そのうちボロが出ますよ」と自ら語るほど、語彙も豊富です。
「フィンランドから日本に来たばかりのときは、日本人独特の建前と本音にかなり戸惑いました。フィンランド人にももちろん建前はあるのですが、日本人のそれとはちょっとレベルが違います(笑)。かつて相手が建前で言ったことを私が真に受けてしまい、関係がギクシャクしてしまったことも……。今ではかなり慣れてきましたが、完全に理解できる、とはまだ言えないかな」とSalmiさんは語ります。
日本人の好きなところを尋ねると、「もちろん人それぞれ個性は異なりますが、性格が穏やかな人が多いところ、相手を尊重するところはフィンランド人と感覚が近く、居心地よく感じています。また、マナーの良く、街が清潔であることなどは日本人の尊敬すべき部分であり、世界中多くの人が見習うべきところ。フィンランド人と似ている文化と全く違う文化があり、それが私にとっては丁度良く感じています」と話してくれました。
故郷から遠く離れた地に根を下ろし、精力的に仕事するSalmiさん。その姿には逞しさと優しさが感じられました。