「コマ大戦」という競技会をご存知でしょうか? 正式名称は「全日本製造業コマ大戦」。日本中、世界中の製造業社が会社の威信をかけて、ひとつの小さなコマを製作し、喧嘩ゴマの要領で戦わせる競技会です。途中で土俵の外に出たり、回転が止まったりしたら負け。ルールはシンプルですが、それだけに独創的なアイデアと加工精度の高さ、規定の隙を突かんとするあざとさが、出場する者だけでなく、見る者も楽しませてくれる大会となっています。2012年に始まったこの大会、現在では年間30場所近くが開かれ、日本だけでなく海外でも開催されるほどの人気となりました。
この競技を思いつき、発起人となったのが、横浜市金沢区に本社を置く木型、モックアップ、モデル製造の会社「ミナロ」の緑川賢司さんです。どのようにしてユニークな企画が生まれたのか? 経緯を伺って来ました。
緑川さんがミナロを創業したのは、今から18年前のこと。勤めていた木型製造会社が営業不振に陥り、リストラされた3人で新たに会社を起こしました。創業当時に自身のブログを開設すると、なんと製造業部門で1位を獲る大人気ブログに。新聞などのメディアにも大きく取り上げられるようになり、会社の業績も順調に成長。このとき、自ら情報発信することの大切さを学んだと言います。
緑川さんが次に思いついたのは、情報発信の力を自社だけでなく地域に活用することでした。多くの中小企業が集まるLINKAI横浜金沢の魅力を発信すべく、「技者王国」という団体を立ち上げます。その団体では「ちゃぶりんぐ(早押しクイズで、早押しボタンの代わりにちゃぶ台を派手にひっくり返す)」などのユニークなイベントが生まれ、地域を盛り上げました。
しかし緑川さんはいつしか、地域活性化だけでは十分でない、と感じるようになります。「製造業全体を盛り上げなければ、町工場をはじめとする中小企業に明日はない!」と思い立ち、新たな企画に乗り出します。それが「コマ大戦」誕生の瞬間。ある日、業界の仲間どうしで夜な夜な語り合っていたときに、茅ヶ崎市にある「由紀精密」という会社がフランスで開催された見本市でノベルティとして配ったコマが話題に。
「コマには製造業のノウハウが詰まっている。これで喧嘩ゴマの大会を開催したら面白そうじゃないか。小さなコマなら、中小企業が本業の傍らで製作するのにも負担にならないだろう」という発想から生まれたと言います。直径2㎝というコマの規格は、より多くの企業に参加してもらうため、業界で最も普及している旋盤(金属を削る機器)と材料のサイズから決められました。思いつきから生まれた企画でしたが、それを話題づくりにつなげる戦略があったのです。
利他の精神なくして、自社の発展は考えられない。そうした思いに突き動かされて、これまで数々のアイデアを形にしてきた緑川さん。「ここに来れば、何か面白いことがある。LINKAI横浜金沢をそんな場所にしていきたいですね」と地域への希望を語ります。ちゃぶ台をひっくり返して、一から新たなモノを作り上げる。コマのように回り続ける。緑川さんのチャレンジ精神は止まることを知らないようでした。