横浜市金沢区福浦で人材派遣業を営んでいる会社、大成ERCは今年で創業50年。会社を率いているのは三代目代表取締役の成瀬有沙さんです。現在、外国人を中心に200名ものスタッフを擁し、生産工場や物流倉庫など様々な業種へと人材を派遣。自社で求人サイトを運営するなど堅調な経営を行っている同社ですが、成瀬さんが社長に就任した当時、状況は全く違っていたそうです。同社が昨年、新たにオープンしたコワーキングスペースで会社経営にまつわるお話、働き方への思いを伺って来ました。
「何をするにしても簿記の知識は必要」という先代社長であるお父様の言葉から経理に興味をもち、かつては会計事務所に勤務していた成瀬さん。しかし16年前にお父様が突然他界されたとき、人生は一転しました。会社経営の道を歩み始めます。
「兄は勤めている会社を辞められないとのことだったので、『それなら私がやるしかない』と会社を受け継ぎました。とはいえ、経営についての知識はゼロ、いえマイナスからのスタートです。社員はほぼ全員が私より年上という状況でした」と当時を振り返ります。
ところが、いざ入社してみると会社の経営状況は順調とほど遠く、今にも倒産しそうな状態でした。とにかく仕事を取ってくるしかない! と近隣企業への飛び込み営業を始めましたが、営業の経験は皆無。当初はお客様から厳しく指導いただくことも多かったそうです。
しかも会社代表になって間もなく、リーマンショックが到来。派遣先が激減し、130人いた派遣従業員が40人ほどにまで減ってしまいました。「会社の経営状況が悪化したとき、まずコストダウンの対象となったのが派遣従業員。当時は厳しい状況でしたが、やむを得ない判断をした派遣先企業様の立場も十分理解できるだけに、とても心苦しかった」とのこと。しばらくは苦しい状況が続きましたが、旧社屋を売却するなどして資金を確保できたことを契機に、会社の業績が持ち直していったそうです。
成瀬さんを支えてきたのは、会社の経営理念である「世界中の人びとに愛と情熱をそそぎ、幸せな未来を創る」という思いでした。
「彼ら外国人は、東南アジアはもちろん、ブラジルやペルーなど日本から遠く離れた国から仕事を求めてやって来ています。スタッフと話していていつも感じますが、その覚悟は相当なもの。彼らの期待に応えられる、素敵な仕事を紹介したいと考えて、これまでやって来ました」と語ります。
スタッフ派遣先をあてがうだけでなく、国家試験の取得や日本語の習得など、バックアップ体制にも力を入れてきたそう。さらには外国人にとって分かりにくい行政手続きや学校、病院の手配等もサポートしてきました。「職場でトラブルが起きる原因は、言語の違いによるコミュニケーションエラーによるものがほとんど」との考えから、本社スタッフがほぼ毎日、派遣先のお客様企業を巡回しているそうです。
本社派遣期間終了後の人生は様々ですが、中には「自分の子どもも日本で教育を受けさせたい」と願う外国人スタッフも多いのだとか。そうして雇う側と雇われる側のつなぎ役となり、双方の信頼を築いてきました。
地域貢献企業最上位、横浜健康経営2020も取得。成瀬さんの語り口からは、会社再建、リーマンショックという厳しい時期を乗り越えてきた自信が窺えます。現在はコロナ禍で対面による営業活動が難しい局面にありますが、「だからと言って事態が改善されるのを待ってはいられない、何か動きださなくては!」と、昨年新たにコワーキングスペース【A-LOUNGE】の運営を金沢区でスタート。テレワークの場を提供するだけでなく、会員同士の交流、地域交流の場に育てていきたいそうです。日本人も、世界の人も、働くことを通してより人生を豊かにして欲しい。そんな情熱が成瀬さん自身の原動力になっていると感じました。