三井アウトレットパーク 横浜ベイサイドから、ほんの数km。金沢漁港で、コンブが育てられているのをご存知でしょうか? 横浜八景島のジェットコースターが見える大都会の海でコンブの養殖を行っているのは、一般社団法人 里海イニシアティブ。今回は同団体理事を務める富本龍徳さんに、「横浜の海でコンブを育てる理由」を聞いてみます。
富本さんがコンブと出会い、このプロジェクトに携わるきっかけとなったのは、意外な場所。東京での物産展でした。
「前職では食品関係の販促をサポートする仕事をしており、そのときは秋田県・三種町の特産品を物産展で販売していました。隣にブースを出していたのが陸上でアワビを養殖する事業を営んでいた方で、コンブについて大変面白い話を窺う機会があったのです。養殖アワビに餌としてコンブを食べさせると、アワビの味がとても良くなること。コンブは海中で大量のCO2を吸収し、酸素を放出するため、地球温暖化対策に役立つこと。それまで、コンブと言えば出汁や食べ物としか認識していなかったため、その話を聞いたときには衝撃を受けました。それ以来、コンブに夢中です」
人生を変えるインパクトを受けた富本さんは、すぐに行動を開始。当時、金沢漁港でコンブの養殖を始めようとしていた里海イニシアティブの設立準備委員会に加わりました。2016年に同団体は一般社団法人化され、本格的な事業化が始まります。
森林がCO2を吸収することはよく知られていますが、海の植物にも同じ働きをしていることは、あまり知られていません。
「CO2吸収量でいうと、実は陸上の植物よりもコンブの方がずっと多いんです。1ヘクタールあたりのCO2吸収量は、杉林が年間約3.5トンくらいなのに対して、コンブは約16トン。同じ面積で5倍近くもの二酸化炭素を吸収してくれるのです。陸の植物が二酸化炭素を吸収し、炭素に変えたものをグリーンカーボンと言いますが、海洋植物の場合はブルーカーボンと呼ばれ、今、世界的にその働きが注目されています」
横浜の海を選んだのは、大都会でコンブを育てることに成功すれば、日本全国どこの海でも養殖場になると証明できるから。都市の漁業関係者に新たな産業を創出したい思いもありました。コンブは水温16〜18℃の環境が最も育ちやすい、とのこと。毎年11月に苗床となるロープに種苗を植え、3月頃に収穫します。種苗はごく小さなものですが、4か月で4m以上の大きさに成長(!)。現在は20×20mの柵をふたつ設置し、毎年約6トンの収穫量を揚げています。
養殖場が金沢文庫に近いことから「ぶんこのこんぶ」というニックネームが付けられ、金沢ブランド認定商品にも選ばれました。金沢漁港産のコンブは柔らかく、風味豊かでサラダなど生食にぴったりだそうです。麺にコンブを練り込んだ「よろこんぶうどん」や「よろこんぶパスタ」も誕生しました。
さらに地球環境への取り組みが評価され、2020年に開催された第8回環境省グッドライフアワードでは、里海イニシアティブが環境大臣賞(NPO・任意団体部門)を受賞。広く注目される存在となりました。
「日本で消費されるコンブのほとんどは、北海道産か東北産です。それらは圧倒的なシェアを持っていますから市場で真っ向勝負しようとは思っていません。地元のレストランで使う食材や特産品の材料として地産地消を目指しながら、新しいニーズを開拓していきたいと考えています。
プロジェクトに賛同してくれた農園の協力を得て、コンブの食べられない部分を畑の堆肥として活用。地球環境に優しい農業実現に役立っています。先日は、東京の銭湯で『こんぶ湯』を実施して大好評だったんですよ。コンブにはミネラルが豊富に含まれており、美肌効果があると言われています」
食べて美味しく、育てやすく、地球環境にも優しいコンブ。富本さんがコンブを大好きになった理由がよく分かるお話でした。
・一般社団法人 里海イニシアティブのホームページ
https://www.satoumi-i.com/