今回は、金沢区の小学生たちが作った石鹸の話をしましょう。金沢区にある横浜市立瀬ケ崎小学校では、子どもたちが自発的に活動し、学習内容を決定していく「せがさきタイム」として、ユニークな学習を行っています。自分たちの身近にある課題は何か? を考えたとき、「今はやっぱり新型コロナ対策が最重要」「感染予防には手洗いが大切! 手洗いを積極的にしたくなる、楽しくなる何かを作ろう」という発想になりました。そこで生まれたのが、オリジナルの石鹸づくり、というアイデアです。
当初、石鹸の材料には、揚げ物などに使われた廃油を使う予定でした。「せがさきタイム」で地球環境についても学んでいた子どもたちは、「不要になったものを捨てずに、有効利用することができないか」と考えたのです。しかし、廃油から作った石鹸は匂いがきつく、とても手を洗いたくなるものではありませんでした。そこで今度は、消臭効果があることで知られる“炭”を混ぜてみることを発案します。ところが、自分たちで作った炭は焼成温度が低く、燃え残りが生じてしまって使えませんでした。なかなか上手くいきません。
そうこうするうち、別の問題も生じます。廃油を原料にした石鹸で手を洗うと、手荒れしてしまうことが分かりました。ひまわりを育て、収穫した種から搾油して一から石鹸を作るアイデアも出ましたが、限られた授業時間内では目的まで到達できません。また、販売したりプレゼントしたりする石鹸を作るには薬機法(旧薬事法)に準拠している必要があり、とても子どもたちだけで作れるものではなかったのです。そこで「太陽油脂株式会社(以下、太陽油脂)」という横浜の会社に相談します。「太陽油脂」は自然由来原料などの石鹸を製造販売する正真正銘のプロ。コロナ禍で直接話し合える機会は限られていましたが、リモート会議で子どもたちの意見を丁寧にヒアリングするなど、強力にサポートしてくれました。
このプロジェクトには、「太陽油脂」の他に原料メーカーである「炭プラスラボ」など地域の様々な企業、団体が関わっています。瀬ケ崎小学校では横浜市が「自分づくり教育(キャリア教育)」の一環として実施している「はまっ子未来カンパニープロジェクト」に参加しており、そこで多くの企業や団体とつながったのでした。以前、このコーナーに登場いただいた「幸海ヒーローズ」の富本⿓徳さんや「アマンダリーナ」の奥井奈都美さんもメンバーの一員です。「最初に思いついた炭を混ぜるアイデアは活かしたい」「地球温暖化対策に少しでも貢献するため、ブルーカーボンとして注目されている金沢産のコンブを混ぜよう」「石鹸の香りを良くし、廃棄物を減らすために給食で提供されたミカンの皮を混ぜるのはどう?」といった子どもたちのアイデアは、専門家たちの協力を得て見事に叶えられました。
そうして何とか完成した石鹸、じっくり思案した結果、「横浜金澤 黒船石けん」と命名されます。黒船といえば浦賀沖(横須賀市)というイメージですが、実は瀬ケ崎小学校の地元である横浜市金沢区の小柴沖に停泊していた期間があり、その歴史的事実を踏まえてのネーミングでした。炭を混ぜたことで真っ黒になった石鹸の見た目にもぴったり。パッケージは廃棄物を少しでも減らすため、箱ではなく紙になっています。
「横浜金澤 黒船石けん」作りに携わった子どもたちに感想を尋ねると「地球環境問題を自分たちの問題として捉えることができるようになった」「石鹸ひとつにも様々な決まり事があり、多くの人たちの知恵が活かされていることが分かった」などの声を聞くことができました。課題学習を導いたのは瀬ヶ崎小学校の桐山 智先生、佐藤詩乃先生、北岡真乃先生。主幹教諭の桐山先生は「課題解決の方法を自分達自身で考えられるようになったこと、そして行き詰まったときには遠慮せず、専門家たちに協力を求めることを学んだ経験は、子どもたちにとって大きかったと思います。大人の手を借りながらも、子どもたちの主体性を尊重することが最も大切でした」と語ります。
「横浜金澤 黒船石けん」の販売で得られた収益は、CO2削減に貢献する「幸海ヒーローズ」やインドネシアで環境問題に取り組む「Waste4Change」という団体に寄付されます。地球規模の課題解決に向けて地域の学校と企業、団体が連携してモノ作りに取り組んだ「横浜金澤 黒船石けん」プロジェクトには、大人たちにも勇気と学びを与えてくれるストーリーがありました。