シーサイドライン鳥浜駅から三井アウトレットパーク 横浜ベイサイドに向かって歩いていると、右手前に「AKT」と書かれた立派な外観のビルが見えます。何を作っている会社なのか、どんなことをしているのか、ちょっと気になりませんか? 思い切って“中の人”に尋ねてみました。対応いただいたのは株式会社アカサカテック(以下、アカサカテック)専務取締役の加瀬伸隆さんです。
アカサカテックは、産業用GPSによる測位技術を軸に、建設業、製造業、海上輸送、インフラ整備などに向けた様々なソフトウェア、ハードウェアを提供している会社です。GPSとは、人工衛星で自分の位置が分かる「Global Positioning System(グローバル・ポジショニング・システム)」のこと。カーナビやスマホ、カメラなどにも搭載されている、現代のモビリティ、モバイル機器では欠かせない技術のひとつです。
「当社は赤阪鐵工所という船舶用ディーゼルエンジンを作る会社内の社内プロジェクトチームが前身となっています。船舶用ディーゼルエンジンは開発・製造に大変長いスパンがかかる工業製品。動力性能や燃費性能の改善に多大な労力をかけて開発されますが、それが結果として会社に返ってくるまでには多くの時間を要します。また競合他社も多い。そこで、何か別のアプローチができないか、ということで、GPSを使った測位システムを提供するアイデアが出ました(加瀬さん)」
社内プロジェクトチームが発足したのは、1985年のこと。デジタル機器に強い方ならご存知と思いますが、もともと米軍が軍事用として開発したGPS衛星が民間に開放され、当時のレーガン大統領による「初期運用宣言」が出されたのは1993年になってからのことです。民間利用できるようになる8年も前からGPSの将来性に目を付けるとは、おそるべき先見の明と言えるでしょう。
「現在では約30機のGPS衛星が飛んでいますが、当時は6機程度。上空に衛星がある限られた時間帯しか正確に測位できませんでした。当時、GPSに興味を示したのは、大学や大企業の研究機関だけだったと聞いています(加瀬さん)」
GPS衛星から得られる情報を、人が見て分かる位置情報にするためにはアプリケーションが必要です。また位置情報をどこか他の所に送るためには通信手段も必要。そのためのハードウェアやアプリケーションを提供する事業を、現会長である加瀬さんの御父様がスタートさせました。その後、GPSに関連する部門をアカサカテックとして1988年に独立。船の性能テスト、航行などに広くGPSが利用されるようになります。GPSが普及する前まで、船の速度を求めるためには、海上に浮かべた目標物間を通り過ぎる時間で測定していた……というのですから、まさに革新的な進歩です。
もともと都内にあった本社を横浜市金沢区に移したのは1997年。横浜市経済局から誘致を受けてのことです。最初は横浜金沢ハイテクセンターに入居しましたが、事業規模の拡大とともに手狭になり、またアンテナ機器などのテストをするためには高層ビルでは都合が悪かったために、2013年、現在の地へと社屋を移しました。
創業から間もなく35年。その間、GPSの測位精度は目覚ましく進歩し、初期の頃にはメーター単位で位置がずれていたところを、今では事後補正した場合でなんと2ミリ(!)、リアルタイムでも2センチという精度で測定できるそうです。
事業分野も広がり、アカサカテックの原点となった船舶向けのシステムは今や全体の3割ほどに。現在では約7割が建設業など陸上で提供されるシステムとなり、さらにGPSだけでなくセンシング(センサーやレーダーなどを使って様々な物体を感知し、測定する技術の総称)全般にわたる幅広いサービス内容となりました。2012年に開通した東京ゲートブリッジ建設にも、同社の技術が活かされています。
さて、時代の波にも乗りながら急成長を果たしてきた同社ですが、事業規模の拡大のみに邁進してきたわけではありません。地域社会への貢献もポリシーのひとつとして掲げています。
「当社社屋は、金沢区災害時等協力事業所として登録されています。大規模な自然災害などがあったとき、当社が有している設備を利用して、状況を行政に報告するなど通信基地のような役割を果たします。また津波避難ビルにも指定されており、万一のときには周辺の方が社屋内に避難できるようにしました(加瀬さん)」
上記以外にも横浜ベイサイドマリーナ地区街づくり協議会活動の一環として、社屋周辺の清掃活動にも積極的に参加。地域を代表する企業として社会に貢献しようとする姿勢は、周辺にある会社の良き手本にもなっています。
単に技術を追い求めるのではなく、現場で働く人たちがどうしたら喜んでくれるかを突き詰めていた過程が、当社を形作ってきた……と語る加瀬さん。「新しいことに果敢にチャレンジできる」と語る企業風土は、GPS、センシングという未知だった分野を自ら切り拓いてきたからこそ会社に根付いたものでしょう。アカサカテックは社会の基盤となるインフラや輸送業界を、最先端の技術と熱い想いで影から支えてきた会社でした。加瀬さん、ご協力ありがとうございました。