横浜市金沢区、富岡総合公園に向かう住宅街の細い路地を進むと、古民家風の特徴的な建物が見えてきました。看板には手描きで「ジュピのえんがわ」とあります。ここは地域に暮らす人が自ら作り上げた駄菓子屋兼コミュニティサロン。代表の髙橋秀子さんに、サロン設立にいたった経緯を聞いてきました。
髙橋さんが地域交流の場づくりを始めたのは、今から20年以上も前のこと。今の場所から少し離れた自宅の一角を使って、愛犬家用グッズの販売を始めたのがきっかけでした。ん? 犬用グッズの店がなぜ駄菓子屋に? コミュニティサロンに?
「うちの長男が出かけ先で水に溺れていた犬を助け、連れてきたんですよ。でも当時は並木の団地に住んでいまして、団地ではペットを飼えない、ということで戸建てに引っ越しました。そこで知り合った犬友達と『愛犬家たちで気軽に集まれる場所が欲しいよね』という話になり、自宅内でグッズの販売を始めたんです。ただ、私個人としては愛犬家だけでなく、地域の子ども達とも関われる場所にしたい、という思いがありました。並木にいた頃、子ども会や民生委員、青少年指導員をしていた経験から、そう思ったのかもしれません。そこで犬用グッズと一緒に駄菓子も売るようになったのが、地域交流の場づくりを始めたきっかけです」
ひと昔前まで、子ども達は学校から帰った後、近所の空き地や駄菓子屋さんに集まるのが当たり前の風景でした。しかし、いつしか時代は変わり、今は駄菓子屋さんも少なくなっています。それなら自分で作ろう、と髙橋さんは考えたのでした。
約13年にわたって自宅の一角を犬用グッズ屋兼駄菓子屋さんとして開放。口伝で評判が広まり、集まる子ども達も少しずつ増えました。すると自宅では手狭になって、軒先に子ども達が溢れるように。そんなタイミングで、髙橋さんは近所に空き家になっている場所を見つけます。それが現在の“ジュピのえんがわ”になりました。
「築70年くらいの物件で、5年ほどは誰も住んでいなかったと思います。広さ的には十分でしたが、建物の老朽化がひどく、全面的に改装することにしました。金沢区の『茶の間』支援事業補助金に応募し、改装費用の一部に活用させてもらったのです。新たに店を作るのも、行政の補助金を申請するのも初めての経験でしたので、たくさんの人に手伝ってもらいました」
ちなみに、「ジュピ」は地域交流のきっかけを作ってくれたワンちゃんの名前。空き家を見たとき、縁側があるのを気に入ったことから「ジュピのえんがわ」としました。改装を終え、副区長、町内会、地域ケアプラザなどの人たちが集まってオープニングセレモニーが行われたのは今から6年前。今では最寄りの小中学校に通う児童生徒だけでなく、金沢区内広いエリアから子ども達が集まってくるそうです。
集まるのは子ども達ばかりではありません。取材時は大人が通う趣味の教室として「つるし雛」づくりが開催されていました。日替わりで新鮮野菜やパンも販売され、地域に暮らすお母さんお父さん、シニア世代まで幅広い層が訪れてきます。元教員や横浜市大の学生が子ども達に勉強を教える場にもなっています。
「はい、交流の場を作りましたよ、と言っても人は集まってくれませんが、何か面白い物を売っているよ、となれば、ちょっと覗いてみようかな、という気になるでしょ。子ども達が集まる場所を、大人が間借りさせてもらっているんですよ。大人たちはみんな、子ども 達が遊ぶ姿を見るだけで元気になりますからね」と髙橋さん。その言葉に、地域コミュニティづくりの神髄を見た気がしました。